An Ode To You

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How to say goodbye

sky

※あなたがもし、精神が不安定だったり、落ち込んで沈んでいる場合は、この先の文章は読まないで下さい。


12月も半ばを過ぎてから、急激に気温が下がり、いきなり冬がやって来た。20度近い小春日和が続き、まだ先だと油断していた季節が、甘い目論見を嘲笑うかのように、一夜にして初霜とともに目の前に立ちはだかっていた。

心構えができていないうちにさらされた寒風は凍えるほど冷たくて、慌ててウールのコートをクローゼットの奥から引っ張り出しながら、冬ってこんなに寒かったっけ?と首を捻った。そして思いあたってしまう。前回の冬は、いつ始まって終わったのか、ほとんど記憶に残っていない。季節の移り変わりに気を取られる余裕もない日々を送っていたのだ。スケジュールの問題ではなく(当然、年末年始に仕事は立て込んでいたけれど、それは毎年のことだ)、心理面において。原因はもちろん、一年前の今日、悪魔に彼を奪い去られたからだ。

ルーティンや目前に積まれた仕事をただこなすことは出来た。それが責任感なのか、条件反射のような怠惰だったのかはわからない。けれどどうしても、新しいことに向かって勉強や努力を費やしたり、将来を見据えて計画的に取り組む、なんてことが、半年以上、まったく出来なかった。その程度の気力さえ失ってしまっていた。
何をするにも疲れて、ふとしたことで心に喪失感が舞い戻り、頭が重くもたげ、視界が曇り、途方に暮れてしまう。哀しみと寂寥が波のように繰り返しやって来て、抗う術もなく飲み込まれ、潮が引くのをひたすら息を止めて待っている。毎日、その繰り返しだった。

自分と同じように彼を想い、亡失を悼み、悲しみを耐え忍んで暮らす人々が世界中にいることは、少し慰めになった。だけれど時々、まるで「誰が一番辛いか比べ」をしているような気分に陥る日もあって、そんな時は何もかもが呪わしく苦痛で仕方がない。今日もまた、その類の憂鬱に取って食われそうになり、慌ててSNSの窓を閉じた。


そう若くもない年齢だから、これまで幾度かの別れに遭遇して来た。友人、家族、憧れのロックスター、応援していたアスリート。その中には彼より年少で旅立った人もいる。だから経験則から理解はしている、この問題を解決してくれるのは時間だけで、何がしかの決着をつけられるのは自分自身だけだと。

それでも今もなお悲しみは尽きないし、理屈では解きようのない問題に立ち止まってしまう。いつから、一体なにが、どうして。

アイドルには向いていなかったのかもしれない。もし違う場所、違う時代に生まれていたら、彼はもっと気楽に音楽や創作活動に携われていた気もする。何年も昔になるけれど、何度か仕事の現場に立ち会った時、同じように感じたのを覚えている。
それでも稀有な歌唱力、非凡な作家性。ステージで、「ファンサービス」ではなく、表現を通して観客に接することができる才能。そういったものが彼をどうしたって表舞台に立たせたのではないか。それに、彼の歌声がなければ、私は決してSHINeeのファンにはならなかっただろう。

新しい曲が聞きたい。歌っている姿を見たい。
イ・ハイちゃんの「ため息」だったり、IUの「憂鬱時計」だったり、「Lonely」のテヨンだってそうだ。一見強そうに見える女の子たちの、パブリックイメージの殻の向こう側にある、苦労していて頼りない素の部分を引き出せる曲を彼は作れたのに。もっと世に知らしめて欲しかった。

もっと沢山のミュージシャンやクリエイターと出会って、インスピレーションや創作の労苦を分かち合って欲しかった。そしていつかおじさんになって、かつて彼自身が話していたとおり、無理矢理スキニージーンズを履いて、いやあ恥ずかしいですねえ、もう高い声は出せないよ、なんて笑いながら、その曲名のとおりReplayを演奏して欲しかった。

もっと長く、もっとたくさん、笑顔を見ていたかった。

でも、これは単にファンとしてのエゴによる願望に過ぎないし、彼の負担や苦痛を増やす希みなのかもしれない。
果たせなかった夢ほど綺麗で、届かなかった光ほど遠い。そしてまた、いくらだって続けられる問いに行き着いてしまう。
堂々巡りで、答えが出ない。さよならという言葉を言えない。言いたくない。これからも、ずっと先まで、言わずに取って置くのだと思う。


デビューしてから数年は、俺が俺がと自分を前に出すタイプだった彼が、いつからか他のメンバーを立て、彼自身の自我をしまい込むようになって、いつの間にそんな大人になってしまったの、とずっと寂しく思っていた。けれども彼が一番最後に残した言葉は、年相応、というより若干実年齢より幼い、青々しい感性の文章だったと思う。歪んだ自己愛と、自己憐憫と、高い理想と自分への期待、現実の姿とのギャップ。紛れもなく20代の、若くて青くさい、等身大の文章だった。

だから、君よりいくつも年上のヌナとして言わせてね。
君が今、苦しみから解放されて、自由を手に入れられたのなら、そうだったらいいなと心の底から祈っていること。それだけはもう答えが出ていて、真実だということ。
そして幸せに笑っていてくれるのなら、たとえ姿が見えなくても、それで全然、構わないんだ。



※不安や悩みを抱えている人は、どうか迷わず休んで下さい。休みを引き延ばさないで下さい。助けを必要としていて、周りに相談できる人がいない場合は、下記の機関を頼って下さい。

・こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117743.html

・よりそいホットライン(0120-279-338)
http://279338.jp/yorisoi/